バスが来ない
バスが来ない……
昔そういうflashありましたよね? はい、ありましたが、それは良くて、
日本で働いている友人がマレーシアへの出張を取り付けてくれたので、今住んでいるシンガポールから会いに行くことにしました。
シンガポールからマレーシアの首都・クアラルンプールは飛行機で1時間くらいです。便数も多いので飛行機で行けばよいのですが、今回は野望がありました。
高速鉄道でマレーシアに行きたい……!!
去る2025年12月、マレーシアで長い期間をかけて施工していた高速鉄道がついに最南端のジョホールバルという都市まで繋がり、開業しました。
マレーシア新特急、最南部に到達 シンガポールへの代替手段にも - 日本経済新聞
(かっこつけて日経電子版の記事を貼ってみましたが、私も途中までしか読めませんのでご安心ください)
高速鉄道は日本でいう新幹線のようなものです。たぶん、、
チケットはマレーシアの総合的な乗り物予約サイトであるEasybookで手配しました。さすが、新規開業ということもあり満席ばかりです。私が取ったのは平日夜20:30出発のチケットでした。これが終電です。平日でしたが定時で会社を飛び出せば間に合うでしょう。
シンガポールからジョホールバルへはバスで行き(このバスは来ました)、そこから高速鉄道に乗り換えます。
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ところが、もう言っちゃうんですけど、
このチケット、
1日間違えて買ってたんですよ。
いやーーー〜〜ー!
ひりつきましたわねえ……
1日5本くらいしかない電車で、その終電と分かってて買ったんですよ。改札を通った瞬間、液晶に「あなたのバスはもう出発しました」とエラーが出て、そんなはずはないと思って現地の駅員さんに確認したら、これは昨日のだぜ! と。
心に軽いざわめきのスクリューが巻き起こり、それがやがて私の全身を揺るがし、次第に体温が上がっていくあの感じです。誰もが一度は経験しているであろう、何かに間に合わないことが確定した瞬間を、なんと、マレーシアでやりました。アツい!!
何かに間に合わないことが確定する夢って、定期的に見ますよね。
──無双竜機ボルバルザーク
お…かつての平成男児の生活必需品「デュエル・マスターズ」の下に書いてある変なセリフパートが補足してくれました。

話を続けます。
「な、なんか、振り替えたりとか、できないんですか?」というたどたどしい交渉もむなしく、満席だから乗れないのだと突っぱねられて私の今晩の安寧は崩れ去りました。友人には謝罪電話をし、次の日の早朝か、なんとか昼までには間に合う方法を考えると伝えました。電車はなんと次の日も全部満席! 破産覚悟で直前の飛行機予約も考えましたが、地方の小都市の空港は夜は閉まっており、間に合いません。
いっそ野宿でもしてやろうか……? と思った矢先、良い歳した男がちいかわおじさんみたいになっているのが流石に目に余ったか、先ほどの駅員さんが声を掛けてくれました。
「まだ高速バスがあると思う。」
……
…………
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・・・・・・・!!!
駅員さんの案内に従い、ジョホールバル中心地(中心地と言ってもかなりコンパクトな町です)からタクシーで30分。暗がりの中に仄かな青白い明りを放つラーキン・セントラル・バス・ターミナルはそこにありました。全然知らない場所です。深夜で人もまばらです。それも、首都に行くバスなのに、カップルで旅行とか、ライブかなんか行くのかなといった風貌の人は全く見えず、普段何をされていらっしゃる方なの?(←黒柳徹子)という感じの方が中心地に比べるとぐっと増えます。まあ、4時間の車道を1500円くらいで運んでくれるのだからそんなものです。おあつらえ向きのディープ・アジアではない、本当の普段着空間がそこにはあったのです。
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ふと友人の顔が脳裏に浮かびます。なんと言っても向こうは出張、私が来るのが遅れる分だけ遊べる時間が減ってしまうのです。1分1秒でも早く着かないと彼が日本に帰ってしまう。さまざまな焦り。
駅員さんにバスを提案され、急いでサイトを開いたら、そこにはジョホールバル23:58発 クアラルンプール4:27着の夜行バスのチケットが確かに残っておりました。携帯の国際ローミングが通信制限にかかっていることに気付かず「この辺電波悪いな~!」と言いながらバス予約に丸1時間かけたのはまた別のお話なのですが、そういう時間との戦いもこなしながら、なんとか次の日の早朝に辿り着けるはずのバスをGETしました。早朝のチェックインになってしまうがホテルももう取ってある。野宿回避。時刻表を見て「ああ、日本と同じ感じだ」とひと安心。高速バスの仕組みなんてもうこれ以上磨くところもないんでしょう。どこの国も同じ。バスターミナルはこれが完成形なのです。よかった。
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待機所
で、今これを書いているのが0時24分頃なのですが、
ん? 0時24分
そう、
このバスが
来ない!!

5分、10分、15分、待てども待てども
私が乗るはずのバスが来ないのです。
特に遅れているという案内も無し。
よく見たら、この待機所の時刻表は
来たバスしか表示しない仕組みになっていて、
まだ来てないバスに関しては何の表示もなければ、音声での案内もされないのです。来るまで分からない。怖すぎます。
ちなみに、チケットを乗り場の改札にかざすと、
「Bus Not Arrived」と表示され外に出られません。
ということは、バスはまだ来てないということなんでしょうけども……
乗り場のスタッフはチケットを確認したり、ファイナルコールの怒声を放つので精一杯といった様子。全く私ときたら、こういう旅行をする度量はあるくせに、忙しそうな人には怖くて声を掛けられません。
まずいか。
……まあ、しかし、
やはり、海外旅行はこうあるべきだと思うんですよね。
留学とか、駐在とか、やってきましたが、
やはりどこまで行っても、異国の土地は日常の延長にはなり得ないんですよ。どう解釈してもホームじゃないから。
だからトラブルなんてあって当たり前、否、むしろあって欲しいくらいです。
行ったこともない町に、そもそも飛行機で行っておけばいいものを、わざわざ陸路で行こうとして、1日間違ってて、急遽高速バスで行くことになって、なんなら今それも行けるかわからないという、この状況が、
燃える!
いや
燃えるのは、
嘘!
燃えるっていうか
こうして無理やり前を向いて、せめて六等星の文字列でも散らばめていないと、気持ちが落ち着かないから書いているだけです。おい、もう0:40ですが。これもしかしてバスターミナル間違ってます?
急にそんな気がしてきました。
誰か助けてください。
追伸:
乗れました。
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バスは45分遅れでしれっと到着していました。
バスターミナルは合っていたのですが、乗り場が無言で変更になっていたようで、私が「これじゃない」と思っていたバスが、実は私の乗るべきバスだったようです。
普通ならそのままスルーされていると思いますが、人種が珍しかったのか、たまたまスタッフが声を掛けてくれて、そこで発覚しました。
良い汗をかきました。
関係ないですが、ここ数年で東南アジアにおけるKoreanの存在感がかなり上がったような気がします。
スタッフに "カムサハムニダ!" と頭を下げられたり、
到着した後も何人かに"Japanese?" と聞かれて、
なんで分かったの? と聞くと
”KoreanかJapaneseかどっちかかなと" という反応が大半でした。
コロナ前まではJapanese一択か、Japanese/Chineseの2択が多かった記憶で、多分当時は東南アジアの人々にとってKoreanがどういう見た目なのかという共通認識が無かったのでは と推察します。
時代は変わりましたね。
逆に、Chineseと言われることは一切無くなってしまいました。なんだ?
──悪魔神ドルバロム
追伸2:
帰りも1日間違えてました。
この記事は読者投稿でお送りいただいた記事です。
編集部より寸評
「旅行記は行動を羅列せずワンエピソードで!」というのは投稿記事へのアドバイスとしてずっと言われている(というか僕が言っている)ことなのですが、そのお手本のような記事でした。なんたって「来ない」というところに注目しすぎて「来た」は追伸パートになっちゃってますからね。追伸にしたから最高!ということではないのですが、そのくらいワンエピソードにフォーカスしてるのはすごく良いと思いました。
あと文体も古き良きインターネットのテキスト文化の匂いを残しつつ今っぽさもあって個人的に好きです。(編集部・石川)
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